オリオスペックで初めて開催するSOULNOTEの製品試聴会。ご参加頂いたお客様の多くはSOULNOTEファンの方をお見受けします。イベント開始前の静粛な空気の中にも、皆さんの期待と緊張が入り混じる様子を感じますね。なお今回は、メーカーのCSRさんより営業方面を統括なさる山神さんと設計者の加藤さんをお招きしております。お二方には新製品のUSBDAC D-1の概要に加えて、現行SOULNOTEのリファレンスシステムのご紹介と一貫するサウンドポリシーついても併せてご案内頂きました。
▽ 鮮烈そして躍動、一貫するシステムサウンド
前半はDAC D-1を初めとしたSOULNOTEのフルシステムを通じてブランドが目指す世界をご体感頂く演目からスタートしました。ソースコンポーネントの核はD-1。これはUSBでDELAと直結、またCOAXでCDプレーヤーのC-1とも繋いでいます。ファイルとフィジカルメディア、両方を再生可能な構成ですね。リレー式のアッテネーターを持つプリメインアンプ A-1とペアとなるスピーカーにはPMCのtwenty5・22。SOULNOTE & PMCによるリファレンス構成です。
イギリスのモニタースピーカーとして著名なPMCですが、現在はCSRさんによる扱いとなっています。このブランドも昔から根強いファンがいらっしゃいますよね。山神さんが仰るには、PMCとの出会いはSOULNOTEの開発に対して大変良い相乗効果をもたらしていて、そのパフォーマンスにも大変満足なさっているとの事。これには設計を担当される加藤さんも大きく頷かれます。
システムの妙というのがありまして、このシステムで聴くサウンドはしっかりハマっているのです。SOULNOTEの求めたサウンドが非常によく感じ取れ、また納得させられるクオリティ。鮮やかさ、そして躍動感。オーディオはシステムで考えるべきだな、と改めて実感。
▽ 母なる設計者には「伝えたい想い」がある
設計者である加藤さんのお話を伺っていると、いちばん大切になさっているものはエモーションのように感じました。それは聴感を通じて心踊る感覚。モノを造るには測定も無論重要ですが、より重んじているのは「聴感を通じたご自身のフィーリング」と仰います。判断軸におけるエモーションとロジックのバランスなのでしょう。加藤さんのフィーリングを満足させるために譲ることが出来ない技術的アプローチ、それはアンプ部を”ノンNFB”のディスクリート回路で組む事。ハイファイオーディオの生命ともいえる強力で安定した電源部とともに、「これはSOULNOTEブランドすべてのラインナップに貫かれたポリシー」と熱く仰います。
“聴感重視” “ノンNFB”、でもこれって現実にはそう容易い話でないはず。同じような試み、過去には散発的にしか見受けられませんし。ポリシーとしてメーカーの立場でこれを実践し続けるのには、相応の技術的な裏付けと信念の様な想いの両方を持ち合わせねば難しいはず、と想像するのです。
フィーリングで最も大切になさっているのは、音の立ち上がりに対する表現力の様です。いわゆる”インパルスレスポンス”かと。例を挙げますと、腕を手のひらで叩けば「ピシャッ」と鳴りますよね。このような素早くそして鋭く立ち上がる音の表現こそ、人間の印象を左右する最も大切な要素との事。加藤さん曰く、「鋭い音を敏感に察知する人間の感覚は、迫りくる危険などを察知するために不可欠な能力。故に『人間の本能に宿る感覚』なのではないか?」と。実は同じ様な論調、とある海外発のデジタル技術についてのオフィシャルな解説文で読んだ記憶があります。奇しくも日本と海外のエンジニアが同じ視点でサウンドを捉えていた事実に驚く次第。
今回加藤さんが選ばれた試聴ディスクのうち、特に印象に残った二枚をご紹介。聴いて頂ければ、SOULNOTEが目指すサウンド志向もご理解頂ける気がします。SOULNOTEのリファレンスシステムでは熱いライブ盤を聴きたくなるのです。
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【右:Rodrigo y Gabriela Live in Japan ~激情セッション~】
メキシコの男女のアコースティックギターデュオ。速弾きの技巧派インストギターのライブ盤。ふたりともスラッシュメタル上がりなアコギ弾きというのが不思議なところ。
【左:Petra Magoni, Spinetti Ferrucci MUSICA NUDA】
弦バスと女性ボーカルのイタリアのグループらしいです。これもアツくて生々しいですね。弦のテクニックと個性あふれる情熱的なボーカルの絡みが楽しいです。
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▽ D-1に込められた想いとは何か
今回のテーマ、新製品のDAC D-1に話を移しましょう。D-1、アンプとしか思えない大容量のトロイダルトランスを核とした強力なアナログ電源部を搭載しつつ、ディスクリートなアナログ出力段がノンNFBで構成されている点はSOULNOTEブランドのポリシー通りとしまして、他にもまだまだ特筆すべき点を持っていました。
D-1で採用されたDACチップはモノ構成のESS Sabre ES9038PRO。今や高級機に採用されるデファクトスタンダードなチップの観がありますよね。加藤さん曰く、「この採用、流行に乗ったものではない」と断言されました。「ES9038PROが実現した120mAに及ぶ桁違いな電流出力の仕様をして、SOULNOTEが重きを置く”ノンNFBなディスクリート・アナログ出力部の設計”により柔軟性を与えてくれ、その特長を存分に活かし切る結果に至るだろう」と。ご存知の通り、ハイレゾマーケットの伸長に伴い、高級オーディオ向のDACチップはここ最近様々なデバイスベンダーからリリースされています。多岐にわたる選択肢の中から選び出したと仰るES9038PRO、加藤さんの読みどおりになったんだそうです。ちなみに大飯喰らいと評されるES9038PROですが、これはディスクリートのオリジナルレギュレータによって素早くしっかりとハンドリングされています。
ESS Sabreの特長は多彩なデジタルフィルターを持つことです。最近はこのパラメータチューンをユーザーに開放するモデルが増えました。しかし、加藤さんは「あえてその手は選択しなかった」と仰います。このパラメータはDACのサウンド基調を大きく変化させるとても重要な設定です。この点を踏まえ、意図してあるひとつのパラメータに固定したのだそう。「このパラメータを選択したサウンドがSOULNOTEの理想である」というわけです。これはオーディオメーカーとしての矜持でありアイデンティティに関わるとして、強い意志を持っての選択と仰います。やはりこの選択も聴感にて行われ、プライオリティはインパルスが損なわれない事だったのだそう。全く一貫していますよね。
“あえて鳴き止めはし過ぎない” 天板の選択も同じポリシーからとのこと。事の前提として80年代のオーディオメディアの影響から、筐体の鳴きを殺せばいいとして過剰な制振を闇雲に礼賛する流れがあるわけです。が、これにもSOULNOTEは風潮に迎合しませんでした。この意図的な判断もやはり試聴による結果なのだそう。筆者個人の経験からも過剰な鳴き止めは躍動感を殺してしまうように感じており、このお話には大変共感を持ちました。天板の素材や厚みだけでなく塗装材やその厚みにも同様の拘りがあるそうで、これも黎明期から変わらぬSOULNOTEの姿と仰います。ちなみにイベントでは天板の上にハンドタオルを置いた状態と置いていない状態で比較試聴させてくれました。”躍動感の変化の様”を感じてくれ、というわけですね。画像で加藤さんが左手に持つタオル、それがその時の小道具なのです(笑)
しかしながら、ちゃんとユーザー側でも遊べる機能を用意してくださっています。それはPLLロックレンジの設定です。これもESS Sabreを採用するDACでは有名なサウンドチューンのポイントでして、D-1の場合は”4段階”から任意に選べる形です。これ、動作安定性すら大きく左右してしまう大変クリティカルなパラメータチューンになりますので、設定はあくまで対向となるデジタル出力機器との相性で決まるものです。が、上手くハマった時のサウンドの変化はフォーカスなどの要素の向上が見込まれます。これは是非使いこなしたい機能です。
天板の放熱孔を覗きますとフルバランスの基板が美しかった事、印象的でした。イベント本番前に山神さんと加藤さんにお願いしまして、「天板を外してご来場の皆さんにもこの基板をご覧頂きましょうよ」と話をしておったのです。が、イベントが盛り上がる過程でそのことをすっかり忘れてしまいまして。ごめんなさい。残念で仕方ないので、この報告でその旨紹介させて頂きますね。
▽ システム構成からD-1を捉えてみる
後半はオリオスペックの進行で、D-1と同クラスと考えられるUSBDACとの比較試聴を行ってみました。恐らくユーザー側がいちばん関心を持っていらっしゃる内容でしょうからね(笑) 比較にご用意したUSBDACは、ドライバにJPLAYモード実装のNmodeさんの新製品X-DP10とオリオスペックでのミドルレンジ価格帯でのリファレンスDACとなるMytek Digital Brooklyn DACです。各DACはDELAからUSBで直結して、アンプとスピーカーを SOULNOTE & PMCのシステムで再生しました。これは各DACの特長が全面に現れて非常に面白かったです。各DACの特長を言葉で表してみるとこんな感じでしょうか。
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SOULNOTE D-1 ⇒ 鮮烈で強靭、躍動感による快感
Nmode X-DP10 ⇒ 独特の美意識による優雅さ
Mytek Brooklyn ⇒ 音源の加工すらありのまま露呈させてしまうドライな表現力
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その後アンプとスピーカーをオリオスペックのリファレンスであるMyryad Z240とHarbeth Monitor30.1にチェンジしてみました。このアンプとスピーカーの特長である”ミッドレンジからローレンジにかけてのニュアンスと柔和なグラデーション表現”に対してDACがどうアクセントを付けていくか、という視点で各々の個性を捉えます。この際もDAC毎の印象には特段の変化はありません。D-1は、鮮烈さと躍動感という要素に対して最高の心地よさを覚える方には他に替え難いDACだと思われますし、お手持ちのシステムのサウンドをより引き締めつつ、熱くてハツラツとした楽しさの方向へとチューンを望まれる方には、よい選択肢のように思われました。なおSOULNOTEのリファレンスシステムで鳴るD-1のサウンドは流石にビシッとハマっていまして、この組み合わせには文句のつけようがないと言うのが正直な感想です。やっぱりオーディオはシステムで考えるべきものですね。
▽ 音楽とオーディオに情熱を抱く人たち
オーディオ機器の中でも特にアンプについては、設計者という”人物像”とリンクして捉えられる事が多いように思います。何時の頃からそうなったのかは定かでありませんが、気が付くとそうでした。今回のSOULNOTEもコアなファンの方々に支えられている人気ブランドですが、そこには「Sさん」という大変著名なエンジニアさんとのリンクがあったと認識しております。誠に恐縮なのですが、SOULNOTEブランドがCSRさんに移管された後、そのリンクは途絶えてしまい過去と現在との間には関連性が無いものと想像していたのです。
が、今回のイベントでその想像が誤解である事を知るに至ります。現在SOULNOTEの設計と音決めをおひとりで担われる加藤さんも、営業サイドを統括される山神さんも、その昔のMarantz時代からSさんとは大変深いご関係だったそう。特に加藤さんは、Marantz以前の某有名オーディオブランド時代(80年代国産アンプの名機を数々リリースした名門)からSさんとずっと一緒にお仕事をなさっていたそうで。やがてPhilipsと密接な関係を持っていた時代のMarantzに移籍され、PhilipsブランドのLHHシリーズの設計や、Marantz Professionalを源流にしてSOULNOTEブランドに至る多くの製品設計にもSさんと共に深く携わっていらしたそうです。つまり現在のSOULNOTEは過去のSOULNOTEから一貫した流れを汲んでいると言う事。
これまた大変衝撃を受けたのですが、SOULNOTE D-1の原点を辿っていきますと、Marantz Project D-1に行き着くのだそう。TDA1541AS2 ダブルクラウンチップを搭載していたあのDACです。記憶のあるベテランマニアさんもきっと多いはず。Project D-1ってノンNFBサーキットで構成されていましたよね? ハイ、それです。実はPhilips-Marantz時代からも一本の線でつながるのが現在のSOULNOTEという事。失礼ながらこの事実も全く存じ上げませんでした。
本来ならちょっと伏せておきたいようなお話だと思うのですが、この件を伺ったオリオスペックより「今回のイベントで是非お話頂けないか?」とお願いしましたところ、山神さんも加藤さんも快くご承諾くださいました。現在のSOULNOTEにおける加藤さんの情熱的感性を基にしたサウンドチューニングは、山神さんをはじめとしたCSRの皆さんが全力で支えていらっしゃることから実現できているのだそう。考えますと、”人物を活かす”、そんな柔軟な発想をなさるチームとリンクされていたのだな、と知った次第です。「設計者自らが量産工程のチェックにまで出向く事があります」ってお話なんかも素敵じゃありませんか。SOULNOTEのイメージ、国産ブランドの位置づけを越えて海外ブランドの様な感覚で見てしまう理由はこんなところにもあるのかもしれません。
以上、”圧倒的に突き抜けたブランド” SOULNOTEさんのイベント報告とさせて頂きます。この度はご来場、誠にありがとうございました。