▽ただ音楽を聴くだけのために、ある種の嗜みを持つ人は過剰を求め続ける
思うのは、趣味のオーディオには「常に過剰を求める嗜好」が存在するという事。大きさ、重量、ワッテージ、歪み率、口径、電源容量。日常で見ると、それは“必要にして十分”という節度からは程遠いわけですね。
年月を越えたとしても、オーディオマニアと呼ばれる人はその“過剰”を希求し続けていると思うのです。個々に多少のレベルの相違があるとしても。ただそれは、単なる数字の大小への拘りとか、科学や技術の裏付けを絶対的に求めているものでも無い点が興味深く、少々オモシロイところでもあります。常軌を逸する実態は、感覚を揺さぶり震わす程の副産物を時としてもたらすであろう事を経験しているからなのでしょうね。“可能性”は甘い蜜の如く。もう「癖」というわけであります。
▽「バイナリは変わらないはずですよ?」といちばん最初に言いそうな人達が先導している実態
そもそも趣味領域のオーディオ機器は家電と分離された別ジャンルであり、また長らくパソコンと呼ばれる世界とも相容れない緊張関係を保ってきました。しかしながら、ここ6~7年そこらでオーディオとパソコンの融和はシフトチェンジして一気に進んでいきます。浸透の結果、今やメインストリームとなったのはご承知の通りです。
ファイルオーディオの実行にはパソコン周辺機器との連携が伴いまして、どんなに文句を言いたくともこればかりはどうしても使用せざるを得ないわけです。が、そのパソコン周辺機器の造りそのものを眺めてしまいますと、オーディオマニア的過剰嗜好からはどうしても物足らなく思うことが残念ながら存在します。きっと、今読んでくださっているアナタご自身にも思い当たる節があるのではなかろうか?と思うのです。データの相違が云々、とか冷静な理屈だってちゃんと自分のアタマでも理解出来ているのに、蜜を求める心が疼いた途端、そんな理性すらすっ飛ばしてくれるところが誠に困ったお話で。合理性を価値の根幹に据えるコンピューターの世界とその対局に集うものの間に存在する「ある種の宿命」なのだ、と思うのです。
ここ最近、そんな対局の世界の間に横たわっている河へ もっと大きな橋を架けようと試みる人たちが出現しています。それが、パソコン周辺機器のベンダーによる“PCオーディオセグメントのスペシャル製品”。特に最近登場したPCオーディオセグメントへ向ける光学ドライブやそれを格納するケースは、従来のコンピューター的価値観からは超越し過ぎていて、その立場からすると もはや「理解の域を大いに超えた」と言っても過言は無い代物。しかしオーディオサイドに立つ人々の空気といえば話は違います。決して冷ややかなわけはありません。派手ではないけれど、むしろ静かに熱を帯びています。
繰り返しになりますが、そんな尖ったメインプレーヤーは誰かというと“コンピューター周辺機器のスペシャリストベンダー”。「バイナリは変わらないはずですよ?」と、いの一番に正論を展開するであろう理性の世界に生きる人たちなのであります。そのアグレッシブさと言えば、今やオーディオメーカーなんて置いてけぼりすら喰らっているかの様相なのです。
▽「オーディオ向け」と称される、高級光学ドライブ関連製品を眺めて
【PIONEER BDR-S12J-X】
高精度なリッピング用途としてオーディオマニアの方々から熱い支持を受けていたPIONEER BDR-S11J-Xがモデルチェンジしました。静音性を確保しつつ、読み取り時の信頼性も担保するプレミアムグレードのBD/DVD/CDドライブは、メーカー自ら“オーディオ品質”と語るわけですが、最新モデルとしてリリースされたBDR-S12J-Xもこの仕様を踏襲しています。
盤質のバラつきが想定されるオーディオCD上のデータを忠実に読み取ろうと試みるPureRead機能やデータ補間の発生頻度を極力抑えると言われる「RealTime PureRead」機能を始め、筐体構造や特殊塗装による振動対策やレーザーの乱反射対策、放熱や静音へも意識的に配慮する内容は、一般的な光学ドライブで求められるクオリティとは一線を画します。この点こそが、「出来得る限り」「ほんの少しでも」を欲求するオーディオマニアの心を捉えていたと言ってよいのでしょう。
ちなみにBDR-S12J-Xは記録/再生でM-DISKへ追加対応した以外、本体に実装する専用ファームウェアの変更と伴うファームウェア設定用ドライブユーティリティの変更に加え、ディスクトレイ部の特殊塗装の具合がBDR-S11J-Xと異なる点。見た目では分からぬ地味な部分、云わば細かい点のチューンナップ版と想起されるわけです。がしかし、オーディオ的な使用で実際に聴き比べてみますと、新旧両モデルのサウンド基調は結構な度合いで変わってきている事実に気が付きます。特に天井方向の音抜けは質を異にしているように感じられまして、これには正直なところ「え?ホントに」と驚いたのでした。この差異は、CDDAを直接ドライブで回しながら再生する形で確かめてみると明確に現れました。「読み取りのソフトウェアチューンでこんなに変わる?」とイベントにご参加のお客様とも、皆で顔を見合わせながら目をパチクリさせておった次第。
PIONEER製プレミアムラインの光学ドライブがオーディオ領域で高い評価を得る要因のひとつは、PureRead機能の設定を専用のドライブユーティリティから細かく調整出来る点にあります。この調整はユーティリティを起動したWindowsPCから操作するわけですが、旧モデルまではこの設定項目が少々複雑で、慣れない方には今一歩理解にしくいところがありました。新モデルではこの点に配慮を施しておりまして、様々な利用シーンに応じる形で“メーカー推奨設定”をワンボタンで投入できるようにもなりました。
ちなみに、BDR-S12J-Xのファームウェアとドライブユーティリティは専用のものでありまして、旧モデルのBDR-S11J-Xには適用できませんし、その逆も不可能ですのでくれぐれもご留意ください。
【RATOC RAL-EC5U3P】
昨年のメーカーさんによるプロトタイプ公開から、その開発動向を含めてその筋の人たちの関心を密かに集めておったドライブケース。電源、重量、構造、材質等々。もうパソコン周辺機器で想定出来得るレベルは大きく超越しておりまして、クラクラ目も眩むほど。
ひとつ目に驚愕する点は、その筐体。2mm厚の鋼板をシャシーとフレームへ全面採用です。メーカーをして「制振構造」と呼んでいるそう。昨今のオーディオ機器を見ましても、このレベルの筐体を採用する製品をそう滅多には見かけなくなりました。光学ドライブを堅牢なフレームにしっかり固定させる手法はオーディオ的に言うならば“正攻法”。コンピューター的には不合理極まりないスタイルも、余裕と安定性を確保したリニア電源での電力供給と合わせて、オーディオ視点からしますと大変好意的に解釈できるというもの。見る側を威圧するほどに圧倒的な構造体が重量に反映するのは至極当然の成り行きでありまして、これはもうシャシーのアイデアを各社で競い合っていた80年代オーディオ黄金期のアンプ並み。既に十分な剛性を持つ鋼の底板に対して、さらにX字状のリブまで付けて歪みへの対処を試みている点など、まさに好例かと。「電源とかは取っ払っちゃっていいので、シャシーだけ単売しないかな?」と仰るお客様もいらしたくらい(笑)
重量に関連するのはふたつ目も同様。12Vと5Vの専用電源部をそれぞれ搭載しておりまして、ツイントランスによる独立電源方式を実現しています。安定且つ良質な電源供給を狙ったというわけです。ちなみに12Vと5Vの二つのボルテージを必要とする理由は誠にシンプルでありまして、BDR-S12J-Xの様なSATAの内蔵型光学ドライブの15Pin電源コネクターには構造的に12Vと5Vの給電用ピンがアサインされています。そこからドライブ内のモーター、回路基板のそれぞれに対して給電するわけです。(RAL-EC5U3P、SATA3.3V電源の供給はできないそうです)
「ものは試し」と、ドライブケースを手にしたお客様。一様に漏れるのは、「うっ、これは重い!」というつぶやき。なにかの金属の塊か?と思えてしまうほどの重量と そこまでやるのかよ?と呟きたくもなるツイン電源は、オーディオ嗜好な心をキラキラとときめかせてくれるのであります。ええ、どうかしてるんですよ。きっとこれは。
このケースに前出のPIONEER BDR-S12J-Xを搭載すると、低域方向の重さや深み、掘り込みが断然変わる感覚。ひと言で云うならば「凄み」。ただ単にディスクからデータをピックアップしているだけなのに。そもそもデータなんか変わらないはずだし・・・。なんというのか、理屈が付けられずアタマを抱えたくなる衝動に駆られます。
【RATOC RP-EC5-U3AIとオプション電源キット RAL-PS0512P】
尖るファイルオーディオ猛者衆の支持も既に盤石な光学ドライブケース RP-EC5-U3AI。メーカーさんはこれを「免振構造」と定義されております。強烈なRAL-EC5U3Pの個性には及びませんが、実際にこれだけを見てみると、「やってる事がやっぱりなんだかスゴイわ」とため息をつくのです。一見普通のチューブ構造に見えるアウタースリーブは厚目の鋼板を利用しておりまして、これで光学ドライブを格納した5インチケースの上下左右を囲い込み、密着させる手法。云わば、従来型ドライブケースをベースにボディ補強を施した剛性向上版。外周を覆う鋼板の内側には防振用の素材を貼り付けておりまして、アウタースリーブと格納ケースの間でみっちりサンドされます。ここが免振という表現に当たるのでしょうね。このアウタースリーブを単体で持ってみますと、やっぱり“しっかり”“どっしり”。ABSの様なプラ素材に慣れた身からしますと、「こりゃ本気だな」と一瞬遠い目になります。
RP-EC5-U3AIにPIONEER BDR-S12J-Xを搭載しCDDAを直接再生しますと、やっぱりサウンドの落ち着きや中低域の張り出しに特長が見られまして、筐体による振動のコントロールって意味があるんだな、と思わざるを得ないわけです。もう「バイナリが・・・」とかそういう話はどっかに行ってしまって、ただただオーディオマニアとしての感性だけが研ぎ澄ませれていく様。
これまでの実績を顧みましても、RP-EC5-U3AIによるPIONEER製プレミアムラインドライブの組み合わせはオーディオマニアの皆さまからの評判も大変に良好でして、既に多くの方々にご利用頂いておるわけです。クオリティには既に満足してなさっているのにも関わらず、オーディオマニアの性とは罪深いものですね。「これ、リニア電源とかそういうのに出来ないの?やってみたらどうなるの?」という、誠に恐れ多い事を仰る方も一定数いらっしゃったのは偽らざる事実でございます。
そこで、メーカーさんは悪魔の言葉をオーディオマニアに囁きます。それが、オプション電源キットRAL-PS0512P。前出のRAL-EC5U3Pに宿る どうかしちゃってる思想はもちろん踏襲です。これにRP-PS0512Sと言う名称の同じく接続用オプションケーブルを併用利用すると、RP-EC5-U3AIのリニア電源化を実現出来ます。RAL-PS0512Pを見ましても、まあ慄くばかり。「これはオーディオです!」と言わんばかりの堅牢な筐体に、DC12V/5Vが独立した容量の大きいカットコアトランス。過剰を尊ぶ“狂気”を目の前にした気分。顔を引き攣らせて小鹿のように脚が震えるのであります。
RP-EC5-U3AIとRAL-PS0512P/RAL-PS0512Sの組み合わせにPIONEER BDR-S12J-Xを搭載しますと、やはりサウンド基調は変わるのです。低域側の掘り込みや凄みとは電源に関連するのかもしれないと、見せつけられるよう。目前で何度も体験してしまうともう抵抗不能に陥ります。ただのデータ吸い上げなのに・・・でも心は割り切れないこの混沌。
【DELA D100】
こちらもお馴染みのメルコシンクレッツさんによるオーディオターゲットの光学ドライブ。前述のRATOCさんのケースと違い、メーカーさんの手によって内蔵される光学ドライブ自体も選別の上 実装された完成品です。さて、これも筐体とデザインに配慮が施されておりまして二面にアルミを採用したスリーブです。重量は一般的な光学ドライブの3倍程度で、重量により振動を抑え込む志向なのでしょう。
この製品の尖ったところは「設計時における想定利用用途」。なんとリッピングだけを想定した思想だそうでして、つまりはライディングも可能な光学ドライブなのに、まずは第一義としてリーディングに集中する形で精度を上げる狙い。恐らくは回転数など様々な光学ドライブメカの制御について高精度なリーディングを対象にチューンしていると想像されます。一応ライティング機能は殺されていないそうですが、ファンレス仕様ということもあり、焼きの際の発熱を含めて設計時には配慮がなされていないために基本サポート対象外との事。まあこちらも大いに潔い割り切り。確かに音楽リッピング/再生用途だけの利用であれば、焼きはしないものなあ。けど、けどさあ・・・(笑)
これでCDDAから直接再生したサウンドはまたRATOC/PIONEERの方向性とも異なりまして、多少ライトではあるものの繊細さや空気感のような機微に配慮されたイメージ。きっとこの方向性がお好みの方も少なくなかろうな、と思うのです。今回のイベントでもD100を推すお客様も多くいらっしゃいまして、「なるほどな」と思った次第。
推しの方のおひとり、「そもそもドライブなんかで音に差なんか出ちゃうものなの?ちょっと確かめに来たよ」と仰っていらした方。イベントはお題がどんどんと進み、気が付きますとそんな話はどこに行ってしまわれたのか。気が付かぬ間にオーディオ感性を全開にされておられたのが印象的でした。首をかしげる方、眉間にしわを寄せつつ「えー」と困った顔をなさる方、差異を機敏に感じうんうん頷く方。我々も含めて大変悩ましいネタと相成りました(笑)
▽「オレたち結局オーディオマニアだったんだ」という事実を思い知らされたイベント
思い起こしてみますと、筐体は筐体自身の、電源は電源自身の、ドライブメカはドライブメカ自身の、それぞれが個々に持つ変化のベクトルがあったように思うのです。要素ごとの特徴と言いましょうかね。「もう感性寄りのオーディオ視点だな」と皆さんで笑いつつ、そんな違いを感じ得た点、これがまた今回の面白かったところでもあります。そして個々の変化は、リッピングよりもCDDAの直接再生の方がより際立つようです。そこまで顕著ではないものの、もちろん同様の変化はリッピングでも要素として感じられますから、光学ドライブ比較の参考指標として頂いていいのではないか、と思っています。
光学ドライブ比較のイベントはこれまで何度か開催して参りましたが、その度に思うのです。始めは疑い半分で、中頃は驚き。終焉に近づくにつれ「オーディオ的にこれはアリかもな」。お客様のお顔の様子やお言葉もそうですし、プレゼン側の我々も同様ですので、このイベントは静かに熱く盛り上がるのです。この日も結局はみんな笑顔の延長線となりまして、最後はいつ終わったのかわからなくなるほどの賑やかな状態に至りました。なんでしょうね、オーディオってやっぱり楽しいですよね。そこに狂気は孕むんですけどね(笑)
また、胸に秘めたオーディオマインドを掻き立てるような実体験型イベントを企画して、皆さんと一緒に楽しみたいな、と素直に思えた次第です。ご参加頂きましたお客様には謹んで御礼申し上げます。楽しかったですね!では、また次回お会いしましょう、ありがとうございました。