【 新製品 JAVS X6-DDC-femto を軽く弄ってみました】
▽はじめに
オーディオシステムを語る上でプリアンプの入力仕様は、その昔から “適応できるソースの多様さ“ を表す重要な指標でした。それはソースコンポーネントの主流がすべてアナログの時代から、80年代初頭より到来するCD時代になってもさほど変わらなかったと言えましょう。
やがてメディアレスなファイルオーディオの時代が到来すると、「音源を格納するストレージ」に大きな変化が生まれます。データの格納先が “PCやそれに関連する機器” へと変化したわけです。コンピュータ関連の機器との接続を要するわけですのでこの点を考慮しますと、親和性の高い接続用インターフェイスとしてコンピュータ向けの物理端子やプロトコルを流用する事になったのは必然と言えます。この動きは、デジタル系のソースコンポーネントの中でも“トランスポート”に相当する機器に対して「変容」という形で直接影響を及ぼしたと評せましょう。
メディアレスの状況が成熟していくに連れ、適応可能なソースの多様さを表す指標は「コンピュータベースのインターフェイスへの対応やその集線」へと移り変わりを見せます。
ところで、このコンピュータベースのインターフェイスは、本質的に純粋なオーディオインターフェイスではありません。これは既にお気づきのところです。合理性や可用性を重視するその仕様をして、オーディオ的視点から見るとケアを要するべきポイントが一定に存在している事実は、しばしば議論に挙がるところでもあります。その具体的対処についても、D/Aコンバージョン前の段階で如何様に処理すべきか、ベンダー・ユーザー問わず様々なアイデアが提案されている、というのが実情です。
踏まえ、デジタルトランスポートが変容し種類が富む経過において、その受け皿となる機器、すなわちD/Dコンバータの存在は、ユーティリティとしてかつて無いほどまでに注目を浴びるオーディオ上のテーマになったのだ、と解釈できます。
<デジタル入力:USB系3系統・AES/EBU・SPDIF(COAX)・SPDIF(TOS)>
<デジタル出力:AES/EBU・SPDIF(COAX)・SPDIF(TOS)・JAVS LINK3(I2S/HDMI)>
▽USB入力端子を3系統実装のデジタルセンター
今回ご紹介する JAVS X6-DDC-femto D/Dコンバータですが、これまで存在していたDDCとは少し指向が異なる入力インターフェイスの仕様が特長です。USBの端子が合計で3種搭載されている点、特筆すべきところでしょう。詳細は以下になります。
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PC表記 → USB-B端子(メス)/ PC及びNASの接続を想定
Android表記 → miniUSB端子(メス)/ Android端末及びPC及びオーディオ用NASとの接続を想定(PC及びNASの場合はOTG不要)
iPad表記 → USB-A端子(メス)/ Apple製iOS端末との接続を想定(PC及びNASの接続は不能)
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これをホームオーディオの実環境で利用するとしますと、JAVS X6-DDC-femtoを介して、二台のPCやNAS、Android端末と一台のiOS機器をUSBで集線できるようになります。具体例を挙げますと、サウンド基調が異なると評価されるDELAとFIDATAを二台所有している場合、X6-DDC-femtoを介してDACに同時結線できるわけです。なおこれらのUSB系の各入力は業界標準的なXMOSで制御されており多くの機器との親和性も高いと想像されまして、加えUSBバスパワーのカットやGNDのアイソレーションをもってPC系インターフェイスのウィークポイントに対するケアすらも同時に行っているようです。
JAVS X6-DDC-femtoはメディアコンバータとして機能しますので、ここからDACへは AES/EBUやSPDIF(COAX)、SPDIF(TOS)のデジタルオーディオ用インタフェースで結線する形をとります。結果、16~24bit/44.1k~192kHzのPCMデータを下流のDACに対してフォワードします。仮に、X6-DDC-femtoの下流が JAVS製のX6-DAC-femtoである場合には、両機のコネクションにI2Sを利用した “JAVS LINK3” を使用出来ます。この場合は、X6-DDC-femtoのフルスペックである 16~32bit/44.1k~768kHzまでのPCMデータとDSD64~256までのDSDデータをフォワード可能となります。なお、信号はすべてのデジタルアウトプットから同時に出力されるので、デジタル信号のディストリビュータとしても利用可能です。
<フロントパネル左:ロータリーセレクター(入力I/F切替)とトグルスイッチ(入力USB切替)>
標準的なデジタルオーディオインターフェイスであるAES/EBU、SPDIF(COAX)、SPDIF(TOS)も当然ながらインプットを搭載しておりますので、PCやオーディオ用NAS、スマホやタブレットというPC関連機器とのコネクションだけに留まらず、従来のコンシューマデジタルオーディオ機器とのコネクションをも対象にした “今どきのデジタルセレクター” として捉えることが出来ます。このようなマルチインターフェイスな仕様を持つ製品の登場をして、オーディオマニアが所有するデジタルトランスポートが今や多岐に渡っている事実を示している様にも思えるわけです。また視点を変えますと、X6-DDC-femtoを利用する事により、UAC2.0規格準拠のUSB端子を持たないレガシーなDACについてもUSBDAC化が可能であると言えます。
<備考>入力端子を切り替えた際のPC側の挙動について
X6-DDC-femtoの入力端子(ロータリースイッチとUSB用トグルスイッチ)を切り替えると、PC側のOSのサウンドからDDCの表示が消えます。この挙動から、X6-DDC-femtoのUSB端子に接続しただけで対向とのセッションが張られるわけではないようです。すなわち、接続した入力への切替を行った後に電気的なコネクションが張られる仕組みです。また、こんな検証もしてみました。同一PC対して、X6-DDC-femtoのUSB端子とAndroid端子から二本のケーブルで結線してみたのです。この場合、X6-DDC-femtoの入力側を切り替える度に PC側は都度ドライバをロードしており、それぞれ特段の問題も無く動作しました。この結線は特に利用用途が見いだせないものですが、挙動から見ますと前述の裏付けになろうと思います。
<売りのFemtoクロック(44.1kHz系/48kHz系)と USBパケット制御の業界標準 XMOS>
▽リクロッキングを兼ねたSRC機能
X6-DDC-femtoにおけるD/Dコンバータとして売りはサンプルレートコンバータ機能の搭載です。旭化成のAKM AK4137EQとFEMTOクロック(44.1kHz系/48kHz系それぞれ専用)を核とした構成は、入力されたデジタル信号を新たにクロックジェネレートし高精度化しつつ、以下の形にリアルタイム処理して下流側へ出力されます。
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<Pass>:
・入力信号をパススルーで出力。メディアコンバートのみ。
・ex. USB 16/44.1 → AES/EBU 16/44.1
<x1>:
・入力サンプリングレートを確認し、同じサンプリングレートを高精度に打ち直して出力。
・ビット深度も24bit化。
・ex. USB 16/44.1 → AES/EBU 24/44.1
<x2>:
・入力サンプリングレートを確認し、2倍のサンプリングレートで高精度に打ち直して出力。
・ビット深度も24bit化。
・ex. USB 16/44.1→ AES/EBU 24/88.2
<x4>:
・入力サンプリングレートを確認し、4倍のサンプリングレートで高精度に打ち直して出力。
・ビット深度も24bit化。
・ex. USB 16/44.1 → AES/EBU 24/176.4
<DSD>:
・全てのサンプリングレートを1Bit化しDSDで出力。
・ex. USB 16/44.1 → JAVS LINK3 DSD64 (以下、制限事項を参照の事)
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※AES/EBU、SPDIF(COAX)、SPDIF(TOS)の各出力における制限事項
・USBから入力された32bitPCMのパケットデータは、上記の各アウトプットを利用する場合24bit化されて出力されます。
・上記の各アウトプットの仕様から、出力可能な最大のサンプリングレートは192kHzとなります
・DSDの出力についても上記アウトプットでは非対応です。
・なお JAVS LINK3 接続の場合はこれらの制限がありません。
※DSDへのトランスコードにおける制限事項
・PCM88.2kHzまでの入力:DSD64へ、96k~192kHzまでの入力:DSD128へ、352.8/384kHzの入力:DSD256へ
・JAVS LINK3 接続のみ出力されます
<フロントパネル右;ロータリースイッチ(サンプリングレート切替)>
<中央のチップがキーデバイスのAK4137EQ。上部白いコネクターの直下がアイソレーション用のトランス>
このクロックジェネレータ、本来は同期動作するべきAES/EBUやSPDIFのオーディオ用デジタルインターフェイスからの入力信号でも非同期で機能します。USB端子から入力されたパケットデータは例の通りアシンクロナス処理されますので上流のPCやNASとは非同期となりますが、既存のデジタルインターフェイスにおいても同様の “非同期処理を行うことができる” との触れ込みです。前段によるクロック精度の影響回避を目的にした機能と言えます。
AES/EBUやSPDIF(COAX)のインターフェイスに関連しますと、これらの入出力端子はトランスを介してアイソレーションされるのも特長で、クロックのみならず電磁的要因のノイズに対しても配慮がなされています。前述と合わせますと、USB端子のケアに限らず、既存のデジタルオーディオ用インターフェイスに対してもしっかり目が行き届いている、というわけです。
関心が持たれるであろうSRCでのサウンド基調の変化ですが、試聴環境ではざっくり申し上げて以下の通りに感じました。
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※PASSのサウンドを基準
<x1>:
・PASSよりサウンドステージが縦方向に広がる。
<x2>:
・x1よりインパルスの表現が向上する感覚、全体に疎が見えてくる。
<x4>:
・x2よりも顕著に立ち上がりの表現が上がってシャープさを感じる。金物の表現に差異が出ているよう。
・x2よりも疎がさらに見い出せてくる。
<DSD>:JAVS LINK3 接続・JAVS X6-DAC-femtoにて検証
・サウンドステージが左右方向にも広がる感覚。
・金物の出方がPCMとは異なり優し目。PCMの方が金物にアクセントが付く。
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面白いのは、この変化、音色には出てきません。純正ペアとなるJAVS X6-DAC-femto以外の他社製DACを利用しても同様の印象です。単一楽器の音色で音質傾向の差違を捉えられる方はちょっとわかりにくいかもしれませんね。PCMの処理は整数倍のアップサンプリング(オーバーサンプリング)なので、これ、当然といえば当然の結果のようにも思います。
▽JPLAY ULTRAstream/DACLINK 700Hzでの動作も良好
D/Dコンバータを介したデジタルコネクションに関心の高いJPLAYユーザーさんには朗報かもしれません。弊社環境にてJPLAYでのULTRAstream/DACLINK 700Hzの動作を検証してみましたが、検証環境下では大変良好な動作が見られました。この折のドライバはJAVS純正ドライバを利用しており、Windows10CAネイティブのMS謹製ドライバではありません。ドライバ・コントロールパネルのバッファセッティングは、USB Streaming modeで “minimum latency” としています。
▽その他、気が付いたこと
内部を確認するためにX6-DDC-femtoの天板を外してみましたところ、天板の厚みに驚きました。底板もこれと同様の構造ですので、筐体、この価格帯としてはなかなかなものの様に思います。
なお、日本向仕様はBluetoothモジュールが外された形で展開されるとの事。恐らくは技適の絡みと想像しますが、昨今の端末事情を鑑みますと少々残念に思うところです。
ここ最近、ユーティリティとして関心を集めつつあるD/Dコンバータ。その最新作となる JAVS X6-DDC-femto の概要、いかがでしょうか?
JAVS X6-DDC-femto、現在オリオスペックにて展示しております。純正ペアとなる X6-DAC-femtoと共にご試聴可能ですので、ご関心を寄せる皆さまは是非ご来店ください。JPLAYでのデモオーダーももちろん大歓迎です。
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弊社webショップ掲載ページは こちら(JAVS X6-DDC-femto)です
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